ミヤマクワガタの生態についての机上の考察


トップページへ>

その2)「エゾ型蛹。」


【エゾ型蛹】

2003年6月に蛹化。蛹時点では第一内歯がある程度張り出していたが。。。


【羽化直前】

羽化直前、蛹の内側に透けて見える内歯には、第一内歯の際立った突出はない。

 なぜ「その」を上にもってきたのか。それは。。。。その1が間違っていたから(爆”)。

■「エゾ型蛹」と、「蛹化時のアゴ変異説」の破綻。

  まず、左の2つの写真を見ていただきたい。わかりにくいかも知れないが、
蛹化時点で突出していた第一内歯が、羽化時には小さくなっている。これが「その1」でKwAが「体液粘度の差」説を持ち出したひとつの論拠でもありました。しかし実は、KwAはフジ型や基本型の蛹を見たことがなかったので、エゾ型蛹に較べて、前者は蛹時点でもっといちじるしい第一内歯の突出があることを(悲しいかな)知らなかったのです。2004年6月発行のむし社「ビー・クワ」のP57にある「エゾ型蛹とサト型蛹」(小島啓史氏)の写真を見て愕然。。。。蛹時点でこのように既に形状の違いが出ているとは。。。
 で、気を取り直して、というか、最近傾いているのが、「3齢幼虫時点での経験値」説です。
一定以下の低温環境、を含む、ある経験値によってフラグが立ち、エゾ型・基本型・フジ型といった差が決定した蛹へと変態するのではないか?と考えるに至りまして、前蛹期も含めた、3齢終期にポイントがあるのでは?と考えております。
 2004年6月現在、我が家には2回の冬を比較的高温(18〜24度)で過ごした蛹がいまして、間もなく蛹化を迎えます。この個体が果たしてどのようなアゴ形状になるのか。。。





その1)「ミヤマクワガタの大アゴ型変異についての、形状面からのアプローチ。」


【基本型】

大アゴの第1内歯が軽く発達、先は軽く二叉に別れる。大アゴを閉じると先の部分が当たる。


【フジ型】

基本型にくらべ、第一内歯がさらに発達。その結果、大アゴを閉じても第一内歯どうしがあたり、先端はひらいたまま。


【エゾ型】

基本型・フジ型にくらべ、先端の二叉がいちじるしく発達。逆に第一内歯は未発達で、大アゴを閉じると先端のみが当たる。

 ミヤマ道にハマった者なら、誰しもが一度はぶつかる疑問「ミヤマクワガタの大アゴの型変異」について、従来おこなわれてきた考察は、『なぜ、ミヤマクワガタの大アゴは基本型・フジ型・エゾ型の3つの形状に分かれるのか?』でした。
 これは、「遺伝説」「気圧差説」などを経て、現在では「気温差説」が主流となっていますが、KwAがもっとも疑問に思ったのは、この大アゴの型変異がなぜ起こるかではなく、例えばそれが気温差によるものであれば、
『それぞれがなぜこの型のアゴにならなければいけないか?』でした。そこで今回は、ミヤマクワガタがこれら3種類の大アゴの形状をもつ理由の一端を、自分なりに考察してみたいと思います。

■アゴの形はなぜ違う?

 まず、KwAが一番始めに思いついたのは、
「地中を掘るための形状の違いではないか?」ということでした。温度差・水分量の違いによって、生活環境内の土の固さが違い、厳寒の地のミヤマ♂は、より“締まった”土中を堀り進むために、先端の2叉が大きくなり、邪魔になる大型の第1内歯が小さくなった(フジ型の発生)のでは?と考えたのです。──しかし、本州の降雪地域と道南では型変異を起こすほどの生活環境差があるのか?また、ならばいっそフジ型は、もっと♀のように歯の大きさ自体が土を掘るのに適した中歯・小歯型になるべきなのではないか?などの否定要素にぶつかり、積雪地域とそうでない地域での比較採集データがないこともあり、この第一の説は早々に置き去りにしてしまいました。
 次に考えたのは、
「樹液場での優位を勝ち取るための戦闘のための形体変化ではないか?」ということでした。「クワガタムシ飼育ス−パ−テクニック」の小島さんによれば、ミヤマクワガタは、生態学的位置(ニッチェ)確保のため、カブトムシが大量に羽化する夏の盛りを避け、比較的初夏のうちに羽化(もしくは越冬休眠からの目覚め)して活動をするとのことです。主たる競争相手のツノ(もしくは大アゴ)の形状に合わせ、それとの戦いで勝ち得るために自らの大アゴの形状を変化させていくというのは、考えられないことではありません。この場合、元来カブトムシが棲息していない地域でのアゴの形状とはエゾ型をさし、また、近年道南でフジ型・普通型が確認されているというのは、カブトムシの北上に伴うものであるという説明も成り立ちます。人工飼育下でエゾ型からフジ型が発生するのは、ミヤマが本来カブトと同一の生息域に居たからでは?とも考えられます。──しかし型の違いによるカブトムシとの戦闘の優位性が明らかに証明されなくては、この第二の説も説得力を持ちません。
 あれこれと決め手を欠く説をあげてきましたが、現在KwAが最も傾倒しているのは、これから述べる第三の説、
「蛹期間における体液粘度の差によるのではないか?」という考え方です。

■第三の説「体液粘度の差」

 きっかけは、オオクワガタで有名な福島県・檜枝岐村でのミヤマクワガタの採集記述を読んだ事に始まります。檜枝岐村で採集されるミヤマは実にバリエーションが多く、色(黒〜茶色)も型も多様であるとのことですが、「エゾ型ミヤマは、どういうわけか大アゴの先端が欠けているものが多い」と書いてありました。大アゴが羽化時に不全を起こしているというのです(これは人工飼育下で経験のある方もいるでしょう)。
 実際に、エゾ型の羽化不全が「多い」のかどうかは分かりませんが、型変異が生育環境の気温差によるものであるとしたら、多様な環境を現出している檜枝岐村エリアで、比較的エゾ型向きの環境下で「エゾ型になろうとしていたミヤマ」が、エゾ型に方向性が固定されてから羽化するまでの期間に、エゾ型形成に否定的な要素(外因・内因)に出会ってしまったということになります。
 ミヤマのアゴ変異を遺伝ではなく、気温という外因を主要因として考えた場合、KwAはその方判定時期(どの型として固定されるかが決められる時点)を考ました。結果、
(1)前蛹化するまでの積算温度到達時間で決定。(2)前蛹期の環境温度で決定、という2パターンを思いつきました。ただし(1)なら、1年モノと2年モノ(あるいは3年モノ)で明らかに型の違いが統計化され、既に解明されているであろうことから、説としては弱いと思っていたところ、上記の「檜枝岐村のエゾ型のアゴ不全」が補強実例となり、(2)に傾倒することとなりました。
 蛹化したミヤマは、蛹の外皮の下で、体組織が粘液(体液)状になります。この粘液の硬化を促進する主要因は環境温度であり、温度が高いと硬化時間(蛹の期間)が短く、逆に温度が低いと長くなります。徐々に粘度が高くなる体液を、蛹という「型」の中に均一に行き渡らせる為に、比較的困難な部分は、♂の大アゴのディティールだと考えられます。
 
体液の圧力は、大アゴの根本から先端に向かってかかりますが、高温で粘度の高めの液体は、先端に多容量を行き渡らせることが困難になるため、根本近くの第1内歯に容積をもたせた方が都合がよく、逆に硬化までに時間をかけられる低温での羽化(エゾ型)は、先端にディティールが集中するのではないか──これらを前蛹時点で判断し、予想される蛹期間(時間)にあわせた型になるのではないか、というのが、今回の机上考察の一応の結論です。

トップページへ>